メールマガジンアーカイブ(2023年12月)
※本記事は,2023年12月に,顧問先様へ配信したメールマガジンのアーカイブです。
皆様
万和法律事務所の弁護士福本・中島・竹田です。
今回のメールマガジンでは、法人登記における会社代表者の住所の非表示のニュースについてご紹介します。
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経営者や起業家のプライバシーを保護し、ビジネスの新規参入を後押しする取り組みが始まる。法務省は2024年度中にも株式会社の登記の際に代表者が希望すれば自宅住所を非公開にする方針だ。会社の設立、代表者への就任などの際に住所の公表が必須でなくなる。
法務省は23年内をめどにパブリックコメント(意見公募)を開始する。省令の「商業登記規則」の改正を予定する。現在はストーカーなどの被害のある場合を除き、法務局の窓口などで紙の登記の資料を閲覧できインターネット上でも見られる。
もともと代表者の住所を公開しているのは公正で円滑な商取引を行うためだ。会社法は代表者の氏名、住所などを登記すると定める。
取引先との商談の前に氏名や住所を確認して臨みたいという需要はある。自身の情報を開示して取引先の信用を得たいという起業家もいる。
ネットの普及で誰でも簡単に登記の情報にアクセスできるようになった。少額の手数料で閲覧できる。手軽に情報を得られる半面、個人情報が不正利用され、脅迫やストーカー行為への心配が高まっていた。
かねて経団連や経済同友会、上場企業などから「代表者個人の住所を誰でも閲覧可能な状態にするのは望ましくない」と指摘があった。
新興企業やフリーランスなどの業界団体は5月、自民党へ非公開を求める提言を提出した。「インターネット上に住所がさらされる可能性があり、法人化をためらうケースが発生している」などと訴えた。
日本弁護士連合会などには悪質商法をする企業から被害を受けた消費者が会社を訴えられるように代表者の住所を公開すべきだとの意見がある。
会社に民事訴訟を起こす場合は本社の住所、届かない場合は代表者の住所に訴状を送ると定める。
消費者が本社に訴状を送っても経営者が「雲隠れ」する事例があるという。本社の実際の住所と登記上の住所が一致しておらず、訴状を送付できない場合もありうる。
法務省は改正する省令案で、住所が非公開でも訴訟手続きを担保する仕組みを盛り込む。代表者に本社へ訴状が確実に届くことを証明してもらう。
法務省はこれまでも住所の非公開化を検討してきた。22年にはネットでのみすべての住所を非公開とし、法務局での紙による閲覧は従来のままできるとする内容の省令改正案をまとめた。
パブリックコメントで「紙をもとにデータベースを構築する業者が出てきて意味がない」などの反対意見があがった。政府内で「紙で閲覧できる情報をネットで取得できないのは問題だ」との懸念が出た。
(令和5年12月24日 日本経済新聞より引用)
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会社法は,代表者の氏名,住所を登記しなければならないとしています(会社法911条)。そして,会社の法人登記は,誰でも閲覧することができるため,これまでは,誰でも会社代表者の住所を閲覧できるようになっていました。
しかし,個人情報の不正利用や脅迫・ストーカー行為への心配から,株式会社の登記の際に代表者が希望すれば自宅住所を非公開にすることが検討されています。
2022年9月1日の商業登記法の改正により,会社代表者等がDVやストーカー被害者である場合には,会社代表者等からの申出により,住所を非表示とすることが可能となっていました。しかし,これでは非表示とされる場合が限られてしまっていたため,次回の改正により,広く住所を非表示とすることができるようになります。
他方で,会社代表者の住所が非表示とされることにより,民事訴訟における送達が困難になることが懸念されています。民事訴訟法上,株式会社に対して民事訴訟を提起する場合,原則は訴状を株式会社の本社に送達することとされていますが,本社に送達ができなかった場合でも,会社代表者の住所に送達ができれば,送達として足りるとされています。しかし,会社代表者の住所が非表示となると,会社代表者の住所への送達が困難となり,民事訴訟における訴状の送達自体が困難となる場合があります。その場合,送達のために調査や再送達を行う必要が生じ,余分なコストを生じることになり得ます。
そこで,住所が非表示でも訴訟手続を担保する仕組みとして,代表者に本社へ訴状が確実に届くことを証明する手続についても検討が進められているようです。ただし,現状詳細は不明なため,煩雑な手続や,複雑な証明を求められる可能性もあります。
法令の改正後,代表者の住所を非表示にしたいが,その手続等にご不安があるようでしたら,遠慮なくご相談いただけますと幸いです。
(文責:弁護士 竹田 仁)
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